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今回の内容について

[第219回]楽天送料無料"下限統一"問題とは?その後ろにある消費者の感覚を押さえなければ危険

2020年1月に話題となった楽天市場での送料無料下限価格統一に対する出展者側の反対運動について、取り扱います。

ECの世界と言うよりWebでビジネスを行うという観点から、それ自体がなぜ反発を受けているか、そしてEC事業者に限らず、Webでビジネスをする側としては、買い手のどういった思考を押さえて、これからのビジネスの仕組みを組み立てていかなければならないか、について取り扱っていきます。

3,980円という価格そのものというより、価格の決定権を奪われることに対しての反発と武器の喪失、そして買い手の見えていること見えていないことなどがトピックスです。

詳しくはPodcast / YouTube動画配信をご覧下さい。

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YouTubeにて動画にて配信しています。内容自体は同じです。お好きな方をご覧下さい。

エピソード詳細

楽天市場で送料が無料になる下限金額が統一されるという発表がありました。それに対して楽天の出品者から反発が起きているということです。なぜそんなことが起きたのかという背景と、その後ろにある悩ましい部分、これから物販において考えるべきことについてお伝えしていきます。

WEBマーケティングについてもセールスについてもECは独特な世界です。当社のような見込み客を取ってリードを育成してお客様に売って、継続的に取引するというBtoBやBtoCとは毛色が違う部分もあるので深くはお話しできない部分もあります。ECをやっていない方も含めて押さえていただきたいポイントに絞ってお伝えしていきます。

ニュース記事を見て思ったのは、誤解を生む見出しが多いということです。「楽天市場の送料無料化に対して、出展者が反発している」「送料0は出展者泣かせ」「楽天の出展者団体、送料無料撤回を求めて・・・」

三つ目でやっと、「一定額で送料無料」と書いてあります。多くの方は、Amazonプライムのように楽天が全て送料無料にすることを急に決めた、という印象を持ったのではないでしょうか。Twitterを見ていてもそういうツイートが多かったです。

それは間違っていて、3,980円に送料無料のラインを統一するというのが事実です。金額そのものもそうですし、一定に保つということに対して出展者は反発があったということです。これがなぜ問題かというと、まず3,980円というのは一般的に安いラインです。5,000円やそれ以上のところもたくさんあります。

送料無料のラインを一定にするということ、そしてそれが3,980円だということ。

まず金額が低すぎるのと、一定にすることに問題があるという部分が大きいのではないかと思います。特に戦略的にECサイトを運営している方にとっては、送料無料のラインをどこに置くかということは一つの大きな戦術なのです。買う人が思っている以上にとても重要なポイントです。それを楽天というマーケットプレイスが一定に決めてしまうこと自体への反発と、今までたまっていた鬱憤(うっぷん)も爆発したのでしょう。

送料一律化の問題点とは

ではなぜ送料一律にすることに問題があるのでしょうか。皆さんも経験があるでしょうが、もう少しで送料無料というシチュエーションです。それがどこのラインかによって行動が変わってきます。あと300円で送料無料で、300円追加しなければ送料が800円かかるということであれば、追加購入するほうが感覚的にお得なので、送料無料ラインを越えようとしますよね。

売る側から考えると、少しアップセルできたということになります。しかしこれが仮に1300円上だった場合、そんなに追加で欲しい物はないから今日はいいやとなってしまったり、他にちょうどよく変える場所がないか探したり、もう少し買う物がたまってから買おうと考えたりして、売れなくなってしまう可能性があります。

送料無料ラインの置き方は、自社に来てくれるお客様がどれくらい購入するかという平均額に合わせてうまく調整することで、売る側としては売上を上げることができます。戦術として重要な部分なのです。

また買うほうとしても、最低金額がいくらかによってお店の格を判断している部分もあります。それが急に下がると、安い店になったと感じて離れてしまうお客さんが出てくるなど、売上に大きく影響します。そういう大事な部分を勝手にコントロールされてしまうということで、お店として反発するのは当然のことだと思います。

楽天は昔からいろいろな方が出品してきて、成功する人もいれば失敗する人もいます。様々な費用が発生する代わりにコンサルティングに入ってくれたりとお付き合いがある中でいざこざが生まれることもあります。もちろんうまくいくケースもありますが。そんな中で一つ爆発につながったのかなと思います。

なぜ今回のような事態になったかというと、別に楽天がバンといったからそれに反発したということではなくて、送料無料の下限額は戦略として非常に重要なファクターであり、それをコントロールされることに対する反発だという点が重要です。

客側の考えは

それでは、お客様はこれに対してどう考えているのでしょうか。「安くなって良い」「送料が分かりづらかった」「安いと思って買うと送料がバカ高いことがあったから、分かりやすくなるのは良いことだ」「Amazonはプライムだと無料だ」という意見が多いです。

それに対して、「物流を分かっていない、物を運ぶにはお金がかかるものだ」と考えるのは自由ですが、お客様としてはそういう考え方になってしまっているということは受け入れた上で商売をする必要があります。

送料はどこまでいっても、なんだか多く支払わされているような気持ちになるパーツなのです。だからその部分をうまく処理しようとしてきたわけです。送料分を元の売値にうまく吸収させたり、昔で言うとZOZOTOWNは送料を自由化したり、EC業界は様々な試みをしてきました。

非常にやっかいというか、発生するのは確実なのでどうしようもないのが送料というものです。お客様に送料に対してポジティブなイメージを持たせることは難しいと思います。どれだけ物を運ぶのは大変だという話をしても、通用しないでしょう。

今回のニュースの見出しがおおむねそのようになってしまっているのも問題です。コメンテーターがそういうことを言うということは、そのほうが見ている人に響くだろうという判断をしたということです。そこに対して物流コストをアピールしても、気持ちはとても分かりますが難しいと思います。

人が代行して物を運んでくれることに対して、それがどのくらいのコストか元々分かりづらいのです。例えば自分がスーパーに物を買いに行ったとして、それを代わりに持ってきているくれるわけです。皆さんは自分が当たり前にやっている日々のルーティン作業に対して値付けをできずに、無料だと思ってしまうのです。

今回の送料の話だけではなく、自分がやることに対して、それが本来はコストとして自分の生活に響いているということがなかなか分かりづらいのです。例えば商売をしていて自分が時間単位で動いてお金を稼いでいることが分かっていれば、自分が1時間を失うとどれだけの損失になるかが分かります。

しかし普通に生活していてそういう実感を持つことはまずありません。一番分かりやすいところで言うと、家事がよく問題になりますよね。家事をお金に換算するのはなかなか難しいです。別にお金が実際に出て行っているわけじゃないから無料みたいなものだろう、という考え方を元々持ち続けてきているからこういう問題が起きているのです。

人間は基本的に自分が動くことに対して、あまりコスト意識がありません。だからそれを代わりにやってくれることに対して、それが明確なサービスになっていない限り、そこにお金をかけるのが当たり前という感覚は生まれないのではないでしょうか。

だから配送に対しても、なぜか自分が損をしている感覚になってしまいます。では自分が代わりに無料でそれをやるかというと、やらないでしょう。ECに限らず様々な商売については、組み立てていかないといつまでもマイナスの印象を引きずることになってしまいます。

コスト削減の仕組み作りが重要

これから事業を進めるにあたってこの事例から学べることは、人や物を移動させるにはどうしてもコストがかかるので、できるだけそれを省けるような仕組みを作っていかなくてはいけないということです。

当社も毎月ニュースレターを無料で送っていますが、一番コストがかかっています。代行会社に配送してもらう費用、印刷費用、印刷したものを運搬する費用と、10万円単位のお金がかなりかかっています。もちろんマーケティング全体を見た上でプラスになることが分かっているのでやっているのですが。

普通のWEBの会社ならこれをPDFで送ると思います。そうするとコストは極めて下げることができます。当社の場合はお客様の層からも、冊子にして集中的に読んでもらうことで様々な考え方をインストールしてもらえるので、当社のお客様にならなかったとしてもきっと良い世の中になるだろうという気持ちでやっています。

物を送ったり人が行き来したりということを減らす方向で事業を組み立てていかないと、これから少子化、人件費の上昇、人材が安定しないと急な業務量の増減、残業代の上限規制などの問題が出てきて、なかなか安定して商売を回していけません。

できるだけ人と物を動かさずにいろいろなことをしなければいけない時代になっているという前提で、今の仕組みをどう見直すかということは、全ての業種において考えていかなくてはいけない課題でしょう。

人が動くことに対してなかなか理解が得られないことは未来も変わらないということ、そしてその前提で事業の仕組みを組み立てて、なるべく物理的な人物の移動を省き、そのぶんをうまく利益として残すか違うことに使う、という考えで5年10年と向かっていかなくてはいけません。

特に小さくて高コストを保てない会社の場合は、厳しい状況になっていくのではないかと思います。ではAmazonがなぜ送料無料にできているかというと、自社で倉庫を持っているからです。取扱量が多くてというだけの話です。

Amazonが当たり前という感覚が消費者にはあるので、Yahoo!ショッピングでも楽天でもその他ショッピングモールでも、送料がかかる可能性があるということはどうしてもマイナスポイントになると思います。ヨドバシカメラのように頑張っているところもあります。

Yahoo!ショッピングでは送料とポイントと商品代金を合わせて一番お得なところをリストアップしるというような努力はしていますが、なかなか難しいところもあるのでしょう。今回のことはただの騒動というか、どう決着が付くかはまだ分かりません。

 

 


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中山 陽平

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